「服を脱いで、翠」
「ふえ? こ、ここで? いきなり?」
 間接照明だけの薄暗いリビングで、康史は娘に裸になることを求めた。
「そう。なかなかエッチだろう? キッチンに母さんがいるところを想像しながら脱いでくれると、父さん、嬉しいな」
「おおおお父さんって、ホンッッット、変態ね!」
 父親とセックスする気満々ではあったものの、生活の場であるリビングでそれを求められるとは正直思わなかった。趣味と実益の為に援助交際を繰り返していた翠だが、ロマンチックな睦み合いを望んでいないわけでは無い。これでも乙女なのである。母親のいない今夜は、父親とロマンチックに愛し合うチャンスであったはずだ。しかし、父親にして恋人の康史が求めてきたのは、淫らで変態的な行為であった。
(まあ、何でもしてあげるって言っちゃったもんね)
 ダイニングの椅子を引き、康史は上着を掛けた背もたれを前にして逆向きに腰かけた。そして背もたれの上に手を組み、娘の媚態を待ちわびる。
「何でもしてくれるんだろう?」
「分かったわよっ! お父さんのエッチ!」
 リビングに背を向けて、翠は父親に向かって制服を脱ぎ始めた。脱いだブレザーをダイニングの椅子に掛け、サテンのリボンをするっと解く。スカートのジッパーを下ろして手を離すと、制服のフレアースカートがふわりと足元に舞い降りた。残っているのは下着と白いブラウスだけである。
「むー」
「どうしたんだい?」
「お父さんの視線がイヤらしい」
「そりゃそうだ。可愛い娘がこんなエッチなコトをしてくれるんだから」
「ふんっだ!」
 先日、康史の会社で肌を晒したときは、身体を揺らして淫らに着ている物を脱いでいった。オトコを誘い、惑わす媚態。それによって、見ている方も脱いでいる方も妖しく心を昂らせていったのだ。
 だが、今はあの時とはシチュエーションが少し異なる。今の康史が求めているのは、おそらく無機質なエロスだろう。
 ドール、あるいは球体関節人形というものがある。『彼女』らの持つ不思議な魅力に惹かれる者も少なくない。造形の良いものは車と同程度の値段がついていたりするし、高名なカメラマンが撮影した写真集もあったりする。
 翠は以前、ネットでそういった人形たちの写真を見たことがあった。おもちゃ屋さんで女児向けに売られている安い人形にはない不思議な存在感に、翠は眼が吸い込まれそうに感じたのだ。まるで本当に魂が宿っているかのような……。
 あの人形たちを想像しながら、翠は淡々と、無表情にブラウスのボタンを外していった。そしてためらうことなくブラウスを脱ぎ、続けて下着を上下とも取り去る。普段の生活の場であるリビングで、翠は一糸まとわぬ姿となった。上着を脱いだだけで、ネクタイもベストも身に着けたままの仕事姿である父親とは対照的である。
「これでいいの、お父さん?」
 腰に手を当ててモデル立ちをした翠は、セミロングの髪を軽くかき上げて挑むように言った。
「いいよ、翠。とっても綺麗だ」
 そう言って、康史は娘の前に立った。そして剥き出しの乳房に手を当てる。
 それに応えるように、翠は父親の首に抱き付こうとした。だが、康史の手に押しとどめられてしまう。
「ストップ。翠は何もしなくていいよ。そのまま手を下ろして、まっすぐ立っているだけでいい」
「なにも?」
「そう。ジッとして、声も出しちゃダメだ」
「まるで人形みたい」
「そうだね。今だけ、翠は生きた人形になるんだ」
 以前、康史は自分の趣味が変態的であると言った。そして、翠はそれに応えるといった。変態と一言で言っても、それこそ人の数だけ異なる趣味がある。援助交際をするだけあって、翠はそう言った普通でない行為が存在することは知っていたし、愛しい父親の求めを受け入れることに躊躇う気持ちは無い。だが、今のこの行為は、少女の想像していた普通の意味での変態行為とはまるで趣を異にしていた。
(普通の変態って……、意味分かんないな……)
 娘を生き人形として愛撫する。
 それは普通ではないという意味で、紛れもない変態行為である。
「ふ……」
 乳房を揉んでいた康史の手が肩に乗せられた。そして娘の肌の滑らかさを味わうように、全身を弄り始めた。肩から二の腕、形の良い乳房、すべすべの背中、ほっそりとした腰、肉付きの良いお尻、ムッチリとした太腿。直立不動でキッチンの方を向いたままの翠の身体を、康史は一流の美術品を撫でまわすように触れていった。
 それが、とても気持ち良い。
(こ、これ……、結構来る……)
 声も出せず、身体も動かせないという状況が、これほど卑猥な気持ち良さを感じさせることに翠は驚いていた。
「ふーっ……、ふーっ……」
 康史は、ただ娘の身体を触っているだけである。乳房やお尻には触れているが、性的な愛撫とは違って揉みしだくという動きではない。両の手で快感という粘土を捏ね上げて、娘という形の像を作っているかのようである。
 先日は康史の舌で全身を舐め回されたが、シチュエーションの違いのせいか、あの時とはまた別種の気持ち良さがある。
 と、いきなり翠の乳首が強い力で摘まれた。
「んーーーっ!」
 危うく翠は絶叫を上げそうになった。突然の刺激に、乳首から稲妻のような鋭い快感が全身に広がったためである。ビリビリと痺れるような快感に膝から力が抜け、翠は反射的に康史の肩に捕まった。
「大丈夫かい?」
「だ……大丈夫……。でも、なんか……スゴイ……。はあ……。……うひっ!」
 父親に話しかけられたため、生き人形プレイはここまでかと思った翠は、完全に油断していた。乳房に続いて、康史の手が翠の秘所に挿し込まれてきたのだ。弛緩しかけた身体に、先ほどと似た、しかしより強い快感が再び全身を駆け巡る。
「ひあ……あ……」
「ほう、すごい濡れ具合だ。良い感じに出来上がったみたいだね。そろそろベッドに行こうか」
「ん……はあ……。ね、お父さん……」
「なんだい?」
「ゴメン、する前にね、ちょっと話があるの……」
「後じゃ、ダメなのかい? こんなになってるのに」
「うひっ! ま、待って待って! お母さんが早く帰って来ちゃうかもしれないし、それに……、その……、お父さんとのセックスで満足しちゃったら、話すの忘れちゃうかも……」
「母さんには聞かれたくない話なんだね」
「うん……。千佳のコトなんだけど……」
「昨日、母さんが言ってたね。遠山さんと付き合うことになったって」
「ああああれはね! 振りだから! アタシの恋人はお父さんだけだから! 元々お母さんが、最近のアタシの行動を怪しんでたから、カムフラージュの為なのよ! ほらほら、お父さんとこんな関係になってるのなんて、絶対秘密だし!」
「カムフラージュ……?」
「そうそう! 本気じゃないの! ええと、お母さんって、最近アタシがお父さんと仲良くしてるのが面白くないみたいっていうか、ファザコンの度が過ぎてるって思われるのか、その辺は分かんないんだけど、でも……、その……、だから……」
 さっきまでの妖しげな性愛行為のせいではないであろうが、話すこと自体は決めていたものの、いざ話すとなると、何故か上手く話すことが出来なかった。ウソをつくことには慣れているはずなのに、千佳の顔がチラついてしどろもどろになってしまう。
「遠山さんは、その事を知ってるのかい?」
「……え? あ、いや……、それは……」
 ここで、翠は完全にミスをしてしまった。千佳は承知で翠のウソに付き合っていると、即座にそう答えられれば良かったのだが、父親からのこの質問はまるで予想していなかった。なぜなら、千佳と付き合っているのは本当のことなのだから、千佳を騙しているという意識はまるで無かったからである。
 康史からしてみれば、この質問は当然のことなのだが、翠がそれに気付いた時にはすでに遅かった。
「と、言うことは、翠はお母さんを騙して、遠山さんも騙してるのか。もしかして、オレも何か騙されているのかな?」
「そ……!」