ガラリ戸の向こうに肌色が揺れている。翠の愛する父親が、妻の早季子と夜の営みに励んでいるのだ。
 ――アタシ、また覗いてるんだ……。
 両親の薄暗い寝室で、康史は早季子を四つん這いにさせ、後ろから腰を突き入れていた。父親の腰が母親のお尻にぶつかる度に、肌と肌が打ち付け合う乾いた音が聞こえてくる。同時に、母親の口からは遠慮のないオンナの声が溢れていた。
 ――バックか……。いいな、アタシはまだ、されたこと無い……。
 父親との情事を思い返して、翠は自分がまだされたことのない体位で母親が愛されているのを羨ましく思った。
 翠から見て、康史と早季子はちょうど横向きで絡み合っている。二人の間からは出し入れされる父親の肉棒が見えるし、四つん這いの早季子の乳房が、支えるものもなく振り子のように激しく揺れているのも丸見えだ。
 ――お母さん、ホントにスタイル良いな。アタシも、何か運動しようかな……。
 好きな男の一番でいるために努力し続ける。翠は母親とのデートで、そう言われた。そして実際に、早季子は定期的にジム通いを続けている。
 ガラリ戸越しに見える両親のセックスから目を離さず、翠は自分の秘所に指を挿し入れた。ぬるりとした感触。溢れる淫汁を指に絡め、翠は自分の媚肉を弄り始めた。
 ――はあ……、アタシ……、お父さんとセックスしてからどんどんエッチになっていくみたい……。
 両親のセックスを覗き見ながら自慰に耽るなど、確かに淫らの極みであろう。だが、翠の本性を知る者であれば、思わず拳で頭を叩きたくなるに違いない。父親への想いを鎮めるために援助交際を繰り返していた翠であるが、身体の対価に金品を得ていたのは事実であるし、それを楽しんでいたこともまた事実である。それを、実の父親とセックスしたから淫らになったなど、クラスメイトの千佳に聞かれたら激しくツッコまれてしまうだろう。
 ――なんで、ここに千佳が出てくるの?
 翠が中学時代から身体を売っていることを知っているのは、ホテルで鉢合わせしてしまった父親のみである。その父親も、娘をその場で抱いてしまったのだから、周囲にバレる心配は皆無である。
 ――そう言えば、お父さんは援助交際をやめろって、結局一言も言わないな……。
 普通の父親であれば、娘の頬を叩いて売春などやめさせるだろう。だが、翠の場合はその父親が、年端も行かない少女を買っていたのだ。身体を売っていたと娘を責めることなど出来るはずもない。
 しかしまあ、だからと言って、翠の方にも父親を責めるつもりもない。お互い様なのである。
 そう、お互いに、想い合っていたのだ。
 翠の父親は妻を愛しながら、娘も女として愛しているのだ。
 ――ふ、ふふふ……。ホントに……、良かった……。お父さんも、アタシを好きだったんだ……。
 右手で媚肉を弄り、左手で乳房を揉み、そして両親のセックスをガラリ戸越しに眺めながら、翠は自分の想いを再確認した。
 翠は、父親を求めて身体を売っていた。
 父親は、娘を求めて少女を買っていた。
 お互いにセクシャルな禁忌の意識が希薄なおかげで、援助交際という名の売買春を介して出会い、そしてお互いを受け入れることが出来た。血の繋がった実の親娘でありながら、互いに想い合う恋人同士となったのである。
 越えがたい壁を越えて男女が想いを遂げたのなら、後は普通、何物にも囚われずに愛し合うだけである。だが、二人の関係はそんな単純なものではなかった。
 そして、さらに悩ましいことに、父親の傍にもう一人の女性が現れた。
 ――真奈美さん、お父さんとどんなセックスをしているんだろ……。
 父親の秘書である真奈美は、康史が少女を買っていた現場を偶然見かけ、それを元に康史との関係を強要してきたのだ。
 娘の代わりに少女を買っていたのなら、康史が援助交際を続ける必要はもう無いはずである。そしてそれは、翠も同じだ。初めは、康史が援助交際を止めなかったのはお互いに同じ想いであるだろうと思い込んでいたが、実は真奈美の存在がその理由だとしたら?
 不思議なことに、翠の心に真奈美に対しては嫉妬心が生まれなかった。それはやはり、愛されているかどうか、という要素が大きいのだと自分でも思う。仮に、康史が真奈美との関係を繰り返し、真奈美に対して愛情を持ち始めたら、翠は激しく嫉妬するであろう。だが、真奈美と直接話してみて、それはないと分かった。真奈美は、康史に『父親』の姿を求めているらしいのだ。つまりは、以前の翠や康史がしていたのと同じような代償行為なのである。
 ――お母さんは、真奈美さんとのことに気付いてるのかな……?
 翠の心に、解けない疑問が再び浮かび上がってきた。
 と、妻をバックから愛していた康史が、いつの間にかスマートフォンを耳に当てていた。誰かと話をしているようだ。その表情は、翠の好きな仕事をしている男の顔だ。
 ――セックスの最中に仕事の電話とか……、お母さんに失礼じゃないの……?
 ほんのりとした違和感を覚えながら、翠は父親の行為にイラっとした。いくら好きな男であっても、その行為に納得出来ないことはある。
 いっそのこと、ここから出て行って父親に注意しようか、などとあり得ない事を翠が思った瞬間、背後からいきなり肩を掴まれた。
 ――止めないでよ。お父さんに言ってやるんだから。
 翠は振り返り、肩を掴んでいるクラスメイトの顔を睨みつけた。くせ毛のショートカットが特徴的な千佳が、面白がるように翠を見つめている。
 翠は、そのまま視線を下に向けた。クラスメイトは翠と同じように、一糸まとわぬ裸であった。千佳の背格好は翠とほとんど同じであるが、身体のラインは彼女の方が女らしい丸みを帯びている。胸のサイズも、千佳の方がカップ一つ分上だ。去年の林間学校で一緒にお風呂に入った時にも思ったが、ただサイズが大きいだけではなく、実にバランスの良い形をしているのだ。美しいと言ってもいい。
 その柔らかい肉の塊が、翠の身体に押し付けられてきた。
 翠自身に同性愛の気は無いが、クラスメイトの仕草に思わずドキリとさせられた。千佳が、学園で事あるごとに恋人宣言してくるのが原因であるかもしれない。
 しかし、千佳は身体を押し付けるだけでそれ以上は何もせず、ガラリ戸の向こう側を指さした。
 ――ん?
 同時に寝室の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
 ――真奈美さん? なんで?
 康史の秘書をしている真奈美が、いつもと変わらない様子で上司の寝室に入ってきた。上司が妻とセックスをしている前でも、真奈美の態度は社長室でのそれと変わらない。
 髪をアップにまとめ、背筋をピンと伸ばし、淡い微笑みを湛えて康史に一礼をした。彼女のトレードマークである胸元のスカーフも、いつも通りに巻かれている。ただ一点、いつもと異なっていたのは、真奈美がスカーフ以外は何も身に着けていなかったということである。豊かな乳房、少し色の濃い目の乳輪、くびれた腰、秘所を覆う陰毛、ムッチリとした下半身。全てが翠の想像した通りの肢体である。
 ――真奈美さん……、スカーフだけとか……。すっごく、エロい……。
 以前、翠はネットで、『全裸で一つだけ身に着けるとしたら何が一番エロいか』、という話題を掲示板で見かけたことがある。男の嗜好を知りたくて翠はその掲示板を上から下まで目を通したが、やはり一番多かったのはエプロンであった。その次が靴下で、あとはメガネやワイシャツなどである。中にはパンツ、というのもあったのだが、イヤイヤそれは違うだろうと女である翠もツッコミを入れた。案の定、その後の書き込みはパンツに否定的なものばかりであった。
 その掲示板でのふわっとした結論は、やはり裸エプロンが最強、というものであったのだが、いきなり現れたスカーフのみの美女の姿は、裸エプロンや靴下のみの姿に負けず劣らずエロティックな雰囲気を醸し出していた。
 ――あ、さっきの電話……、真奈美さんを呼んだんだ。
 妻の蜜壺から肉棒を引き抜いた康史は、愛液にまみれた自分のモノを、ベッドに横たわって喘ぐ早季子の目の前に差し出した。
 それを目にした早季子は気だるく身体を起こすと、躊躇なく夫のモノを咥え込んだ。夫の先走りと自分の愛液でぬらぬらになった肉棒を、早季子は丹念に舐め回していく。
 自分の肉棒を舐める妻の頭を撫でていた康史は、早季子の頭をポンポンと叩くと場所を明け渡すようにベッドから降りた。そして窓際のソファに腰を下ろし、悠然と足を組む。傍らのサイドテーブルに置かれた中身の入ったブランデーグラスを手に取ると、自分の妻と秘書を面白げに眺めやった。
 代わりにベッドの空いた場所へ真奈美がするりと上がってきた。父親の秘書が、ほんのりと頬を上気させているのが見える。
 抜群のスタイルを持つ熟女と美女は、ベッドの上で一瞬目を合わせた。そして次の瞬間、お互いの頬に手を当てて唇を重ねる。男女の睦み合いの場所が、今度は女同士が愛し合う空間となった。
 ――わ……! お母さん、やっぱりそうなんだ……。
 母親の早季子が男も女もイケるというのは、先日の母親とのデートで教えてもらった。今、翠はそれを目の当たりにしているのだ。
 ――女同士でも、気持ち良いのかな……。わ、スゴイ! お互いのアソコ、舐め合ってる……。なんか、すっごく、エロくて、イヤらしい感じがする……。
 女同士……。翠は振り返り、裸のまま頬を染めて自分に絡みついてくるクラスメイトに目を向けた。千佳が、翠の視線を受けて恥ずかしそうに眼を伏せる。
 何もかもが翠の思った通りであった。
 翠の思った通り、早季子は真奈美と康史の関係を知っていたようである。それどころか、真奈美を交えて三人で愛し合うような関係なのだ。
 翠の思った通り、真奈美の身体は女でも惚れ惚れするようなスタイルであった。乳輪の大きさも、陰毛の量も、翠の想像したままであった。
 翠の思った通り、千佳は翠のことが好きらしい。裸で自分に抱き付いてくるなんて、いつも通りの千佳である。
 翠の思った通り、康史は……。
 翠の思った通り、……。
 翠の思った……。
 翠の……、思った……?