康史と早季子は、娘が普段目にしている挨拶のような軽いキスではなく、お互いに舌を挿し込むネットリとした口付けを交わしていた。その片手間に、二人はお互いに着ているものを、あっという剝ぎ取っていった。セックスを覚え始めたばかりの中学生のように、もどかしげに相手を裸に剥いていく。
 康史は妻のトレーナーの裾に手を掛け、一気に持ち上げた。下着をつけていなかった早季子の量感のある乳房がぶるんと揺れる。
 早季子は夫のスウェットに手を掛け、下着ごと一気に足首まで下ろした。バネ仕掛けのように、いきり立った男のシンボルが妻の眼に晒される。
 あとはもう、勢いであった。互いに半裸の状態で抱き合うと、二人は唇を重ねながらベッドに倒れ込んだ。そして、相手の身体に残った衣服を脱がし、完全に裸になる。
「今夜は随分と積極的だね」
「だって、久しぶりにあんな誘い方をするんだもの。朝から身体が熱くなっちゃったわ」
「なるほど、だからこんなにビショビショなんだ。それなら……」
「はあっ……ん!」
 妻の身体に覆いかぶさっていた康史は早季子の両脚を割り開き、問答無用とばかりに腰を一気に突き入れた。すでに準備万端整っていた早季子の蜜壺に、夫の肉棒が奥まで突き刺さる。
「あ……、は……。い、いきなりなんて……」
「全然抵抗なく入ったよ。でもって、今度は離さないように咥え込んでいる。リビングでもう出来上がってたんじゃないか? それに、久しぶりだから、身体が随分と飢えてたみたいだね」
「いやあ……、あなた、そんなこと言わないでぇ……」
「しばらくぶりで済まなかったね。今夜はたっぷり愛してあげるよ」
「ふうん……、ふあ……ああアっ! あアん! アン、はあン、アうン!」
(お母さん、なんてイヤらしい声で鳴くの……。お母さんの……エッチな声……)
 父親の影を求めて援助交際を繰り返していた翠であるが、さすがに同性の喘ぎ声は聞いたことは無い。複数でのプレイなどしたことは無いし、クラスメイトとそういう話題になったことも無い。強いて言えば、ネットに上がっていたAVのサンプル動画くらいであるが、あれが演技でないと思えるほど、翠は乙女ではなかった。
 そういった意味では、翠は逆に初心(うぶ)な少女であるとも言えた。要するに、翠は偏っているのである。異性への想いもそうであるし、異性との経験もそうである。
 だがそれは、別に責められることではない。想いの形は十人十色。生涯一人の異性しか知らない者が不幸な人生を送ったとは限らないし、男漁りの果てに理想の男性と幸せな家庭に収まって良妻賢母となった者もいたであろう。
 だから、血の繋がった実の父親と恋仲になったことが、翠にとって悲恋となると決まったわけではないのである。
 ないのであるが……、今のこの状況は、翠にとって非常に不愉快であった。自業自得ともいえるが、それも承知で理不尽にして不可解な思いに囚われているのだ。
 哀しみでもなく、怒りでもなく、喜ばしいはずもなく、そして何故かほんのりと楽しい。
 翠の目の前で繰り広げられている男と女の情愛に満ちた絡み合いは、少女にとって二つの意味を持っていた。
 恋人が、自分以外の女とセックスをしている。
 父親が、母親を愛している。
 前者は少女にとって受け入れにくいことであるが、後者は娘にとって喜ばしいことである。そもそも、父と娘が恋仲になるということが、矛盾に満ちた不条理なものなのだ。エゴだと分かっている。理不尽であることも承知している。そして、承知しているがゆえに、不愉快であった。
 自分の中に沸き上がってくる相反する二つの感情を抱えながら、それでも翠は性的に興奮していた。淫らな嬌声を上げて、愛する夫の身体を受けている母親から目が離せない。
「あああん! あなた! 今日は! つ、強い、のね!」
 いきなり突っ込んだとはいえ、初めはゆっくりと動いていた康史の腰が、段々と速くなってきた。その腰の突き入れに合わせて、早季子の喘ぎ声も速く、リズミカルになってくる。
「お前も、今日は随分と佳い声を出すな。翠に聞こえてしまうよ」
「だって……、ああん! 最近……、あなた、翠と……ばっかり……」
「何だい、焼きもちか。可愛いな」
「やだ……、こんな年なのに……、娘に焼きもちなんて……」
(お母さんが、アタシに焼きもち……?)
 母親が、自分に焼きもちを焼いていた……。その事実に、翠は心がふわっと沸き立つ感じがした。ざわついた血液が全身を駆け巡り、温くて心地良い感覚で身体が軽くなる。
 他人から受けるジェラシーが快感になる。それは、罪深いことである。その感情を突き詰めていくと、自分だけが幸せになり、ライバルは不幸になってしまうのだ。だが翠は、母親の不幸など望んでいない。
 一人の男を間に挟んで、妻と娘がその男を取り合っている。
(お父さんってば……、ホントに悪いヒト……)
 いっそのこと、このままクローゼットから飛び出して、二人の行為に混じってしまおうかと翠は思った。父親は少し慌てるだけで、仕方がないと苦笑するだろう。だが、母親はそうはならない。なるはずもない。妻にとって、夫が娘に寝取られるなど理解の外にある話だ。一人の女として自分の男が奪われるのは許せないし、一人の母親として娘が父親と背徳的な関係を結んでいたなど許しがたい。
 それが分かっているから、翠は康史と何度も言い合っていたのだ。「バレたらまずい」と。
 そんな娘の葛藤など知らずに、翠の恋人は妻に甘い言葉を囁きながら励んでいる。
「いいんだよ。お前がまだまだオンナの証拠だよ」
 そう言って、康史は喘ぎ声の途切れない妻の唇に吸い付いた。初めから舌を挿し込む濃厚なキスだ。同時に、妻の身体を抱き締めつつ、蜜壺に激しく出し入れしていた肉棒を根元まで突き入れた。妻の身体を、翠の父親は全身を使って上下同時に犯す。
「んむー……っ!」
(うわ、お父さん、アレが好きなんだ……)
 自分の時にも同じことをされた翠は、昨日の父親との行為を思い返して下着の中に手を入れた。ぬるりとした感触の媚肉に触れて、そのまま軽くイッてしまう。
(お父さん……、お母さんっ!)
「ああっ! あなたっ! ギュッとしてっ! ギュッと!」
「ああ、いくよ! 早季子!」
「あ……っ! ああああああっ! んんんー……んあああっ!」
 康史にのしかかられた早季子の口から、翠の方が心配になるほどのあられもない喘ぎ声が溢れ出した。防音がしっかりしているはずの三嶋邸であるが、それでも母親のみっともないオンナの声が隣近所に聞こえてしまったのではないかと不安になる。
「んん……ん……あ、はああ……」
(スゴイ……、お母さんの、オンナの声……)
「はあ、はあ、はあ……。こんなに……、感じたの、久しぶり……。翠に弟か妹が出来ちゃうかも」
「早季子がこんなに乱れたのも久しぶりに見るよ」
「ふふ……、だって、今朝みたいな誘い方、あの子が小学校の時以来じゃないかしら」
「そんなになるか?」
 今朝、康史はわざわざ翠に気付かれるように、妻を夜の営みに誘った。普段は世間一般の夫婦と同じように、枕やマグカップを使って合図を送っているのかもしれないが、少なくとも翠はそれに気付いたことは無い。
 もしかしたら、ガラリ戸越しの二人が肌を合わせたこと自体が、本当に久しぶりなのかもしれない。そう考えると、翠は康史に少し腹が立ってきた。なぜなら、例の掲示板を使い慣れている様子から見ると、翠の父親は頻繁に女子高生を買っていた可能性が高い。つまり、康史は妻も娘もほったらかしにして、他の女を漁っていたということになるのだ。
(……いや、アタシは違うか。お父さんとセックスしたのって、昨日のことだし。それに、それはちょっとアタシの早とちりかもしれないし)
 翠は、そのことをハッキリさせておこうと心に決めた。さて、どちらに聞くべきか……。
「……それで、ブラもつけずに下にいたのかい? 翠にバレたらなんて言われるか」
「うふふ……、多分バレてたわね」
(え、え……、なに? いつの間にそんな話になってるの……?)
 自分の考えに沈んでいた翠であったが、両親のピロートークの話題は自分のことになっているようである。
「本当かい?」
「だって、あの娘ったら、私の胸をチラチラと何度も見てたんですもの」
 クローゼットの中で、翠は思わず息を飲んだ。そして、母親の鋭さに感心してしまう。バレないようにしていたつもりであったが、娘の視線には完全に気付いていたらしい。もしかしたら、他にもバレていることがあるのかもしれない……。
 年頃の娘であれば、親に対する隠し事など少なくない。学校の成績、秘密の夜遊び、訳アリの彼氏、エトセトラ、エトセトラ……。ましてや翠は、援助交際と近親相姦という、普通の母親が聞いたら卒倒しそうな秘密を隠している。
「もしかしたら、今もこの部屋を除いているのかも、ほら、そこで……」
 予想外の母親の言葉に、翠の全身が総毛立った。
(覗いてるのが、バレた……?)
 叫びだしそうになる口を押さえて、翠は息苦しくなった。心臓は持ち主の意思に反して激しく踊り、その音が聞こえてしまいそうだ。翠は胸を押さえた。うるさい。鼓動がとてもうるさい。身体は弾けそうなのに、それを無理やり押さえているのだ。心臓も素直に従ってほしい。大声を上げて飛び出しそうになる衝動を、翠は懸命に押さえつけた。ガラリ戸の向こうに見える父親と母親から目が離せない。
「まさか……」
 そう言った夫を横目に、早季子はベッドを降りてクローゼットに身体を向けた。量感のある形の良い乳房も、行為の後で濡れぼそった恥毛も、ガラリ戸越しの真正面に見える。一糸まとわぬ裸身のまま、母親は素足で絨毯を踏みながらゆっくりと近づいてきた。
(うそ、うそ、うそ……っ!)