話は一時間ほど前にさかのぼる。
 時刻は夜の九時過ぎ。翠と康史が家に帰ってきたとき、母親の早季子はまだ帰ってきていなかった。
 翠が父親と共に夕食へ行っていたのと同様に、早季子もママ友たちとホテルのディナーパーティーに行っていた。帰宅は同じようなタイミングになると思っていたのだが、どうやらこちらの方が早かったらしい。
「お母さん、遅くなるのかな?」
 リビングの明かりをつけ、鞄を入り口脇に置いて、翠は制服姿のままソファに腰かけた。
「どうだろう。母さんの友達って結構ウワバミだと言っていたからな。別のお店で、もう一杯飲んでいるのかも」
「メールしてみるね」
「ああ。オレは先に風呂に入るよ」
「うん。……ね、一緒に入ろっか」
「お……」
 スーツを脱ぎかけた姿勢のまま、康史は嬉しそうな顔をして一瞬固まったが、すぐに首を横に振った。
「いや、止めておこう。母さんが帰ってきたらまずいからな」
「ぶー」
「今度ゆっくりな。休みの日で、母さんが出かけてるときにでも」
「そんなの、いつになるのよ」
 専業主婦である早季子が家を空ける事はあまり無い。逆に翠は普段学校に行っているし、康史は仕事で帰りが遅いことも多い。その二人が家にいて、早季子の方が外出しているという状況を、翠はなかなか想像できなかった。
「そうだな……。母さんが旅行に行ってるとき、くらいかな」
「あ……! 今度、婦人会で温泉に行くって言ってた!」
「じゃあ、その時だな。それまではガマンしてくれよ。いい子だから」
 そう言って、康史はソファの背もたれ側に回ると、娘の頭をポンポンと叩いた。
「むー、まーた子ども扱いするぅ……」
「じゃあ、大人扱いをしてやろう」
 康史は翠の背後から手を回し、娘のおとがいに手をかけて上を向けさせた。ソファの背もたれに頭を乗せる形で、翠の顔が天井を向く。
「ん……」
 上下逆に顔を合わせる形で、父親が娘に唇を重ねてきた。康史の舌が唇を割って挿し込まれてくる。
「んん……ん?」
 普段のキスとは違った感触に、翠は不思議な感じがした。舌と舌が同じ面で合わさっている。父親の口から流れてくる唾液を絡ませながら、翠は自分の舌を父親の口の奥深くに挿し込んでいった。同時に、康史の舌も翠の口腔深くに入ってくる。お互いの舌で、二人は同じような場所を舐めまわし続けた。それは舌のシックスナイン、とでも言えるかもしれない。そんなディープで不可思議なキスを、二人は静かなリビングで味わった。
「む……は……」
 さすがに息が苦しくなったのか、どちらともなく二人は唇を離した。娘と父の間にキラキラとした粘り気のある糸が引かれ、消えていく。
「なんか、不思議なキスだった……」
「上下逆だったからな」
「……陰陽ってあるよね、お父さん」
「なんだ、いきなり。光と影の、あれかい?」
「うん。なんか、今のキスって、あれのマークみたいな感じがした。ほら、丸の中で白と黒がくるくる混じり合いそうな、あれ」
「ああ。あれは両儀って言ってね、この世のすべてのものは対になっているって考え方を記号にしているんだ。天と地、昼と夜、表と裏、それから男と女、親と子、そういったものを現すそうだよ」
「ホント? すごい! 今のアタシたちみたい! 男と女で、親と子、かあ……」
 父親の博識ぶりにも驚いたが、それ以上に、今の話の内容に翠の心は震える感じがした。何か沸き上がるものが、喉元から噴水のように広がってくる。
 陰陽での男と女は、そのまま対になる存在のことである。親と子も対のものとして表現されるが、男女と同時に表されることはないであろう。そういった意味でも、翠と康史の関係は歪なものと言える。
 だが、自分たちの関係が、そして今のキスが、世の理を表すものに近いというイメージに、翠はなんだか不思議な嬉しさがこみ上げてきた。親子で情愛を交わすなど、異常なことだという自覚はある。だから、そんな自分たちを肯定するものがあるかもしれないという話は、翠の心を少しだけ軽いものにした。例えそれが、自分たちに都合の良い、拡大解釈だったとしても。
 と、自分の考えにうっとりとしていた翠の耳に、リビングの扉が閉まる音が聞こえた。いつの間にか、康史は娘を置いてさっさと自分の部屋に戻っていってしまったらしい。
「ん、もう!」

 鞄を手に自分の部屋に戻った翠は、母親の早季子にメールをした。返答はすぐに帰ってきたのだが、内容は完全に康史の予想通りであった。タイトルは、『お酒、美味しい』。
 早季子はディナーパーティーが終わってから、婦人会のメンバーでそのまま別のお店に飲みに行ったらしい。といっても、そこらのママ友連中が連れ立って居酒屋に行くのとは違い、同じホテルの最上階にあるラウンジで飲んでいるそうだ。どこのホテルかは聞いていないが、多分、夜景の綺麗な高級ラウンジであろう。
「ご・ゆ・っ・く・り……、と」
 最後の文面を入力し、送信ボタンをタッチする。心持ち、その操作に力が入った。
「ふ……。よし!」
 スマートフォンを枕元に放り出し、勢いよくベッドから降りると、翠は着たままだった制服を脱ぎ捨て、下着だけの姿となった。姿見に映る自分の半裸を、上から下までじっくりと眺めやる。
「よし!」
 もう一度気合を入れた翠は、そのままの格好で自分の部屋を出た。
 今、この広い家にいるのは、自分と父親の二人だけである。そして、その父親はただいま入浴中だ。
 他に誰がいるわけでもないのに、翠は足音を忍ばせて廊下を進んだ。階段を下り、玄関ホールを抜け、家の奥にある浴室に向かう。ゆっくりと扉を開けて脱衣所に入ると、シャワーの音が聞こえてきた。どうやら身体を洗っているところらしい。翠は静かに下着を取り去ると、曇りガラス越しの父親に声を掛けた。
「お父さん?」
「ん? 翠か? どうした?」
「入るね」
「は……、こ、コラ! 待て待て待て!」
「うふ、もう、遅いー」
「母さんが帰ってきたらどうするんだ!」
「大丈夫。お父さんの言った通り、別のお店で飲んでるんだってさ。あと二時間は帰ってこないよ」
「はあ……。まったく、そんな年から性欲が強いとか……」
「ぶー、ハズレ」
「ん?」
「ただ、お父さんと一緒に入りたかっただけだもん」
「……男と女が裸でいるのに、何もしないわけがないだろう」
「こんな時だけ大人扱いしてぇ。お父さん、今夜はお母さんとエッ……セックス、するんでしょ? アタシとしたらまずいじゃない」
「それが分かってて、何で……」
「身体、洗ってあげるね」
 翠は父親からスポンジを取り上げると、ボディソープを垂らし、普通に父親の身体を洗い始めた。
「手、上げて」
「あ、ああ……」
 康史の戸惑いが伝わってくる。
 昨日、二人はお互いの想いを確かめ合い、親子にあるまじき情熱的で濃厚なセックスをした。普通なら、共に想い人となった男女は、それ以降タガが外れたようにお互いの身体を求めあうだろう。
 だが、血の繋がった実の親子という関係のせいか、二人は表向き理性的に振舞っていた。さっきの帰りの車の中でも、そのことをお互いに確認し合ったのだ。
 触れれば手の届く位置に、相手の無防備な裸身がある。にも関わらず、康史は手を出してこなかった。娘の言うことを素直に聞き入れ、されるがままに洗われている。
 自分の方を見ようとしない父親に対して、悪戯心が沸き上がった翠は、洗いながら片膝を立てて軽く足を開いた。父親の眼に、自分の股の奥が見えるように。
「……お前がそんなにいやらしい娘だったなんてな」
「んふふ、何のことかなぁ?」
 チラチラと、父親の視線が遠慮がちに自分の秘所へと注がれてくる。それだけで、翠はなんだか気分が良くなってきた。というより、実際は興奮してきたのだろう。自分が興奮していることを悟られないように、父親の身体を洗いながら、翠は桃色の吐息をゆっくりと吐き出した。
「はい、今度は足を広げて、お父さん」
 翠は父親の正面に回ると、康史の両の腿に手を当てた。ジム通いで引き締まった脚を軽く撫でる。そして、観音開きのように父親の足を開き、肉棒のそそり立つ股間を露にした。
「なんだか、風俗の娘みたいだな」
「行ったことがあるの?」
「昔、仕事の付き合いでな」
「付き合い? 仕事で?」
 翠の知る風俗は、男一人に対して、女が一人で相手をするというものである。翠のやっていた援助交際もそれにあたる。中には男一人に女が二人、というプレイを希望する者や、男も女も複数という者たちも居た。だが、それは稀なことであって、翠自身はそういったことはしたことがない。それに、店を構えての風俗となると、やはり一対一が普通であろう。だから、そういったお店に男が複数で行くというのが、少女の感覚的にはよく分からなかった。
「まだ、今の仕事を始めたばっかりのころのことだよ。取引先の社長に奢ってもらったんだ」
「風俗を奢るって、よく分かんないな。知り合いのすぐ近くで、女の人とするってことでしょ?」
 スポンジをいったん置き、両手にボディソープを垂らして翠は泡立てていった。そして娘の全裸を前にして、元気に上を向いている父親の肉棒を洗い始める。
「ふお……。一緒なのは待合のところまでだったな。社長からこの娘の舌がおすすめだとか、この娘はオッパイが大きいから挟んでもらえるとかな」
「むう……、はさむ……」
 片手で父親の袋を優しく洗いながら、翠は反対側の手で自分の乳房に触れた。男の人のモノを舐めるのは多少の自信があったが、胸の大きさだけはどうしようもない。
「お母さんも胸、おっきいよね。やっぱり、男の人って大きいのが好き?」
 少し心配そうな顔をつくり、翠は上目遣いで父親を見上げた。
 こういったとき、女は『そんなことは無い』という返事を期待する。『太ったかな』とか、『あの娘かわいいよね』とかいうときは特に注意が必要だ。
 だが、康史の返事は、そんな乙女心などに気を回したものではなかった。
「そりゃ、大きいに越したことはないけどな」
「ふんっだ! そのうち、アタシもお母さんみたいになるんだから!」
 母親の早季子は、実にグラマラスな身体をしている。熟女好みの男は同時に巨乳好みであることが多いが、翠が母親と二人で買い物に行ったときなどは、年配の男性の視線を集めることが多い。
「楽しみにしてるよ。ところで、最後までしてくれないのか?」
「ダメ! 今日はお母さんとするんでしょ? 勃たなかったり、量が少なかったりしたら、変に思われるわ」
「ここまでしておいて生殺しか。ヒドイ娘だ」
「べーっだ! その代わり、次の時はいっぱいしてあげる」
 舌を出しながら、翠はシャワーを父親の肉棒にあて、丁寧に泡を洗い流していった。
「……」
 娘が自分のいきり立った肉棒を洗うのを、康史は黙って見つめている。
「……なに?」
「いや……」
 いきなり歯切れの悪くなった父親であったが、それ以上は何も言わなかった。そのまま無言で立ち上がり、浴槽に入って湯船に身体を沈める。なみなみと満たされた浴槽から、康史の体積分のお湯が溢れ出した。
「翠もおいで、一緒に入りたかったんだろう?」
「うん……」
 自分の身体についた泡を流し、翠も父親に続いて湯船に身体を沈めた。