「美味しかったー」
 帰りの車の中で、翠と康史は堪能したお店のコース料理を思い返していた。
 地中海料理と一言で言っても、実のところ、その範囲はかなり広い。地中海という名が示す通り、ヨーロッパの南方から中東、そしてアフリカ北部を含む広い範囲の地域の料理が含まれる。国でいえば、ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガル、ヨルダン、エジプト辺りであろうか。オリーブ油やナッツ、野菜、果物をふんだんに使うのが特徴であるが、もう一つ特徴がある。それは、地中海沿岸という場所柄、海産物をよく使っているということである。そのせいか、日本人にも好まれる料理が多く、デビルフィッシュなどと呼ばれているタコの料理も珍しくない。
「ああ、確かに旨かったな。翠はどこであんなお店を知ったんだ?」
「千佳に教えてもらったの。一緒に食べに行こうって誘ってくれたんだけど、女子高生二人で行くにはちょっと雰囲気が良すぎたのよね。千佳には悪いことしちゃったかな」
「そうかもな。今度は遠山さんも誘って行こうか」
「いいの?」
「もちろん」
「わ、嬉しい、千佳が喜ぶわ。お母さんも?」
「そうだな。どうせなら遠山さんのご両親も誘うか」
「……お父さん、仕事の眼をしてる」
「ん? そうか?」
「アタシはともかく、親友をだしにしてほしくないかな」
「すまんすまん。だけどこれは、社会人の条件反射みたいなものだよ。どんな形であれ、人と人との繋がりは財産なんだ。翠も大人になったら分かるよ」
「ぶー。どうせまだ子供ですよぅ」
「身体は立派になったけどな」
「……! お父さんのエッチ! 昨日、アタシとしたばっかりなのに、今日はお母さんとエッチするんでしょ?」
「ふ……、くっくっく……」
 康史のいやらしい含み笑いに、翠はムッとした。
「何よ、変な笑い方して」
「いや、すまんな。セックスのことを『エッチ』なんていうあたり、やっぱり子供なんだなって思ってな」
「その子供に手を出したのはお父さんでしょ? 変態!」
「そうだな。翠の恋人は、実の娘に手を出す変態だ」
 変態と言われ、まったく悪びれる様子の無い父親に翠は呆れてしまった。同時に、自分は子供なんだと強く思う。こういったやり取り一つとってみても、父親の方が一枚も二枚も上手だ。父親を罵ったはずが、逆に恋人と言われて心が浮き立ってしまった。
「むー……」
「今朝のこと、気付いたのか?」
「今朝? ああ、お父さんの方が気付かせたんでしょ? それより、お母さんの方に気付かれたんじゃないかって心配しちゃった。アタシのいる前で『オレ』なんて言うんだもん」
「まあ、大丈夫だろう。母さんはいつも通りだったし」
「女を舐めるとコワイよ。お父さんだってアタシのしてたこと、全然気付かなかったんでしょ」
「ん? ああ、まあ、そうだな。気を付けるよ」
「ホントに気を付けてよ。一つ屋根の下に住んでるんだから」
 父親と娘が恋人同士というのは、普通の家庭において実に混沌とした状態であると言えよう。
 これが、夫と妻の関係が冷え切っており、母と娘も反目していたのなら、まだ分かりやすいのかもしれない。母一人が孤立して、娘と父が慰め合う関係となるだろう。
 だが、三嶋家は夫婦仲も家族関係も非常に円満である。他所の眼から見ても仲睦まじい家庭に見えるし、翠たち自身も居心地のいい安らぎのある家庭だと思っている。
 しかし、その中に一組、背徳的なカップルが出来上がってしまったおかげで、家族の関係性は見えないところで歪なものとなってしまった。父親は同時に翠の恋人であり、娘は同時に康史の愛人でもある。このまま平和な家庭を続けて行くのなら、翠と康史の関係は絶対に早季子に知られてはならない。
「ホントに気を付けないと……」
 夜景が流れる窓の外を眺めながら、翠は誰にともなく呟いた。

「って、さっき言ったばっかりなのに、アタシってば何をしてるの……」
 言葉とは裏腹に、両親のクローゼットに潜んだ翠は、ガラリ戸の隙間から見える光景から目が離せなかった。
 クローゼットの中は三嶋邸の間取りと同じく余裕のある作りで、人ひとりが立ったまま入ってもさらに余分なスペースがある。翠の周りには、ハンガーに掛けられた両親のスーツやコートにワンピースなどが下がっており、棚には靴や鞄が並んでいる。いわゆる、ウォークインクローゼットである。
 両親の服飾品に囲まれながら、翠は隙間の向こうに見える一組の男女が繰り広げる淫らな行為に見入っていた。
 女は仰向けになって両脚を広げ、男の身体を受け入れている。男は女に覆いかぶさり、相手の両脚を抱え込んで腰を突き入れていた。女の口からは、男のリズミカルな腰の動きに合わせるように艶っぽい喘ぎ声が溢れ出しており、部屋の雰囲気を淫らで妖しい色に染め上げていた。
「あああん! あなた! 今日は! つ、強い、のね!」
「お前も、今日は随分と佳い声を出すな。翠に聞こえてしまうよ」
「だって……、ああん! 最近……、あなた、翠と……ばっかり……」
「何だい、焼きもちか。可愛いな」
「やだ……、こんな年なのに……、娘に焼きもちなんて……」
「いいんだよ。お前がまだまだオンナの証拠だよ」
 そう言って、康史は喘ぎ声の途切れない妻の唇に吸い付いた。初めから舌を挿し込む濃厚なキスだ。同時に、妻の身体を抱き締めつつ、蜜壺に激しく出し入れしていた肉棒を根元まで突き入れた。妻の身体を、翠の父親は全身を使って上下同時に犯す。
「んー……っ!」
(うわ、お父さん、アレが好きなんだ……)
 自分の時にも同じことをされた翠は、思わず下着の中に手を挿し入れた。両親のセックスを見て濡れている自覚はあったのだが、予想外にぬるりとした感触に翠は驚いた。引き抜いた指先を目の前に持ってきて、粘ついた液体に濡れているのを見つめる。
 昨日のホテルで、父親から舌と肉棒を使って同時に責められた翠は、それまでに感じたことのないくらいに激しい快感を得た。頭の中が真っ白になり、目の奥で火花が散り、全身の柔らかい部分に電流のような快感が駆け巡った。愛しい男に抱かれているという、精神的な充足感もあったのだろう。
「ん……は……」
 相手の身体の重みを感じることのできるこの態勢を見た翠は、あの時の感覚を反芻するだけで軽くイッてしまった。声が漏れそうになる口を押さえ、下腹がキュッと締まる感覚で身体を震わせた翠は、静かに息を吐き出した。部屋の明かりがついていたのなら、その吐息は薄桃色に見えたであろう。
 寝間着のボタンを外し、自分の胸元に手を挿し込んだ翠は、すでに固く尖っている乳首を摘んだ。
「ん……」
 同時に再び下着の中に手を入れ、濡れる秘所をまさぐり、本格的なオナニーに耽り始める。
 両親の性行為は、幼い頃に見たのならトラウマになるか、そうでなくてもその後の人格形成に大きな影響があるだろう。だが、今の翠は心身ともに成長しており、セックスに至っては同年代の少女たちよりも遥かに多く経験している。
 あくまで自分の意思で、自分の趣味で、父親と母親のセックスを覗き見ているのだ。
 両親のセックスを『おかず』に自慰行為を楽しむ。援助交際で身体を男に任せているときとはまるで違う快感を覚えながら、自分は何でこんなことをしているのか、翠は思い返していた。